「で、美和さん、この報告書は何ですか?」課長のソプラノ声が部屋に響いた。
美和は黙って目を落とした。
「実験開始早々5分でゴキブリが出たのに驚いた相手の方が、
ゴキブリが退治できないことに怒って、以後の協力を拒否。
その後は、あなたの娘さんの遊び相手ロボットとして、相手の方がロボットを操縦。」
「これは事実ですか?」
「ハイ」と美和さんは、小さな声で元気なく答えた。
「素晴らしい! 素晴らしい報告書ですよ。これは!」興奮してソプラノ声がさらに裏返りかけている。
「え!」
「最初のテストで、次の次の段階のテスト、
いわゆる 老々介護の初期テストに、合格したようなもんですよ。
しかも、ロボットに縁のなかった70代の普通の主婦が、
3日間の練習で、ロボットの運転をマスターしたんですから。」
「そりゃ、課題は出てきますよ、ゴキブリ、蜘蛛、ハエ、ムカデ、蜂、ペットの猫や犬」
AIが苦手とする家の生き物にどう対処するか?それは解決されなければなりません。」
「でも、アバターロボットのシステムの設計思想が、操縦のしやすさとして現れたんですよ」
「では美和さん。実験継続のため、この方へのヒアリングとゴキブリ対策を次の最優先課題としてくださいね。」
!!!